長く生きてきたからこそ、見えてしまうものがある
ワタクシ、あかねは昭和6年生まれの94歳でございます。
満州事変の年に生まれ、戦争を生き抜き、シングルマザーとして4人の子供を育て上げ、オイルショックも乗り越えてきた。
この国がどん底から這い上がる姿を、この目でずっと見てきました。
だからこそ、いまの日本を見ていると、胸がざわざわするのです。
まるで川の上流で小石が一つ転がり始めたのに、下流の人々が「まだ大丈夫」と高をくくっているような、そんな不安を感じるのでございます。
「316」という数字が意味すること
2026年2月、第51回衆議院議員総選挙で自由民主党が単独で獲得した議席数――316議席。
衆議院の総定数は465議席です。つまり自民党だけで、全体の68%を占めた。与党全体では3分の2を超えております。
3分の2と言えば、憲法改正の発議ができる「スーパーマジョリティ」でございます。
これは、ちょうど9人兄弟のうち6人が賛成すれば、残り3人が何を言おうとも押し切れる、そういう状態です。
16日間の選挙戦――「電撃解散」という名の奇襲
高市首相が断行した今回の解散は、通常国会の冒頭、予算審議を完全に無視して行われました。
解散から投票日まで、わずか16日間。戦後最短の選挙戦です。
16日間というのは、ちょうど梅雨の晴れ間のようなもので、国民がじっくり傘を買いに行く時間もないうちに土砂降りが来てしまった、そういう感じでございます。
首相は「私を信認するかどうかの選挙だ」とおっしゃった。
しかし、それは、政策を吟味する選挙ではなく「好きか嫌いか」を問う人気投票へのすり替えになってしまいました。
国民生活が失われた30年という不況で苦しめられているところに、ヒーローのように登場した高市氏です。
こんな国にしたのは自民党なのに・・・
しかも、この電撃解散の裏には、自民党の裏金事件や旧統一協会との関係というスキャンダルがある。
選挙の喧騒でそれを押し流そうとした。
「消費税ゼロ」の約束はどこへ消えたのか
選挙戦で最も輝いていた公約がございました。
「食料品の消費税(8%)を2年間ゼロにする」
物価高に苦しむ国民にとって、これはまるで砂漠のオアシスのように見えた言葉です。
食料品だけゼロというのは問題があるにしても、みなさん「ほう、それは助かる」と思ったのでしょう。
ところが、当選後の施政方針演説ではこうなっておりました。
「野党の皆様のご協力が得られれば」「国民会議において検討を加速し、結論を得る」
オアシスだと思って近づいたら、蜃気楼だった――そういうことでございます。
さらに驚いたのは、その「国民会議」とやらへの参加条件です。
「消費税廃止を主張しないこと」「給付付き税額控除に賛成すること」が条件だという。
つまり、消費税の廃止や減税を訴える政党は、最初から議論の席に座ることすら許されない。
これは話し合いではなく、イエスマンを集めた独演会でございます。
316議席もお持ちなのに、なぜ国会で堂々と議論して実行なさらないのか。ワタクシには、どうしても理解できません。
「実質賃金プラス」――統計を着飾らせた嘘
施政方針演説で首相はこうおっしゃいました。
「令和6年度の実質賃金の伸びはプラスとなっており、7年度及び8年度もプラスとなる見込みと。
しかし、この発言に対して野党からは厳しい批判が上がっています。
日本共産党の田村智子委員長や小池晃書記局長は、実質賃金は実際には4年連続でマイナスであると指摘しています。
そして、政府が予算編成に向けて出した経済見通しの一部データを切り取っただけであり、
「小手先のごまかしまでして、あたかも暮らしが良くなるかのようにミスリードしている」と、事実をねじ曲げたものであると強く非難しています。
たとえて言えば、体重が4年連続で増え続けているのに、「今朝は昨日より少し軽かった」という一点だけを取り上げて「ダイエット成功!」と宣言するようなものです。
ワタクシが若いころ、大本営発表というものがございました。
戦況が悪化しても「皇軍は善戦している」と。あの記憶が、ふと頭をよぎりました。
物価が上がり、賃金が追いつかない。
その「生活の重さ」を感じているのは、統計ではなく、スーパーのレジに並ぶ一人ひとりの国民なのですから。
「成長のスイッチ」の正体――置き去りにされた暮らし
48分に及んだ施政方針演説。
「強い経済」「成長のスイッチ」という言葉が何度も飛び出しました。
しかし、医療・介護・年金といった社会保障への言及は、驚くほど少なかった。
「成長のスイッチ」を押した先にあるものを、具体的に申し上げましょう。
裁量労働制の拡大、これは「残業代ゼロ」で長く働かせる仕組みの促進です。
原発の再稼働と次世代炉の開発、これは福島の教訓よりも経済優先の選択です。
そして軍需産業への投資、防衛費をGDP比2%以上に引き上げ、殺傷能力のある兵器の輸出までも解禁しようとしている。
防衛費が文部科学省の予算の2倍にまで膨らむ一方で、社会保障が削られていく。
ワタクシは94年生きてきて、「強い国」という言葉が、いつも普通の人々の暮らしを犠牲にして成り立ってきたことを知っています。
首相がおっしゃる「人材力」という言葉の冷たさ――それは国民を人間ではなく、
国家という機械を動かす「部品」として見ている言葉のように、ワタクシには聞こえます。
「スパイ防止法」と監視社会への危うい一歩
れいわ新選組の大石あきこ共同代表が警鐘を鳴らしているように、政権が目論む「内閣直属の国家情報局」や「スパイ防止法」の制定には、深刻な懸念があります。
「インテリジェンスの強化」という名目の下、政権に都合の悪い意見を持つ者を「スパイ」として取り締まる――これはかつての治安維持法と、どこが違うのでしょう。
ワタクシは女学校時代、「非国民」という言葉がどれほど人を傷つけ、沈黙させたかを知っています。
異論を言えない社会がどこへ向かうか、この身をもって知っています。
今回の選挙自体も、十分な議論の時間を与えず、情報と広告によって歪められた民意の上に成り立っているという指摘があります。
民主主義は、選挙さえ行えばよいというものではないはずです。
それでも、希望は消えていない
暗い話ばかりで申し訳ございません。でも、ワタクシはこう思っているのです。
政権の欺瞞に気づき始めた人々が、確実に増えています。
選挙後、「しんぶん赤旗」の購読者が急増しているそうです。
若い世代が「このままではいけない」と声を上げ始めている。
「知ること」への渇望こそが、独裁を止める最強の武器でございます。
316議席という壁は厚い。しかしその土台は、私たち主権者の一票一票でできています。
嘘をつかれたら「それは嘘だ」と言う。おかしいことには「おかしい」と言う。
それだけのことが、この国の民主主義を守ることになる。
ワタクシが生きてきた94年は、声を上げることを許されなかった時代から、
声を上げることができる時代への道のりでもありました。
その自由を、どうか手放さないでください。
長生きするのも、こういうときに役に立つのかもしれませんね。
✦ 最後の一句
数の海 溺れぬように 声あげよ 嘘の堤は 砂でできてる
(五・七・五・七・七になりましたが、どうしても言い切れなくて……94歳の欲張りをお許しくださいませ)
