まさか、この歳になって、こんなにも世界が鮮やかに見える日が来るなんて、夢にも思っていませんでした。
光を取り戻した日
90歳を迎えた春、長年悩まされてきた白内障の手術を受けたのです。
手術前日は、正直なところ不安でたまりませんでした。
「この歳で手術なんて」と思う気持ちと、「もっとはっきり見たい」という願いが胸の中でせめぎ合っていました。娘が付き添ってくれたことで、どうにか勇気を出すことができました。
手術当日、病院のベッドに横たわりながら、医師から「10分ほどで終わりますよ」と言われても半信半疑でした。
局所麻酔を受け、眩しい照明の下、微かに器具の触れる感覚はありましたが、痛みはほとんどなく、あっという間に終わったのです。
手術はあっという間に終わり、目を覚ますと、まるで長年かかっていた薄いベールが剥がされたように、景色がくっきりと目に飛び込んできました。
「ああ、こんなにも空は青かったのか」
「庭の草花の緑は、こんなに生き生きとしていたのか」
病室の窓から見える桜の花びらの淡いピンク色に、思わず涙がこぼれました。
それまでは霞んでぼやけていた色彩が、まるで水彩画から油絵に変わったかのように鮮やかに見えるのです。
病室を訪れた孫の顔の表情まではっきりと見えたときの喜びは、言葉では言い表せないほどでした。
見えるようになった喜びは、私の心に眠っていた好奇心と、何か新しいことを始めたいという意欲を呼び覚ましました。
まるで、人生の新しい朝を迎えたような、そんな清々しい気持ちでいっぱいになったのです。
私の元気の源
私の元気の源は、昔から続けている日々の習慣にあります。
毎朝6時に起き、まずは窓を開けて深呼吸。それから軽くストレッチをしてから、ゆっくりと時間をかけて近所を散歩するのが日課です。
天気の良い日は神社の林まで足を伸ばし、悪い日はマンションの周りを2周するだけにとどめています。
見えるようになったおかげで、足元の小さな石ころや、道端に咲く名も知らない花にも目がいくようになりました。
先日は、アスファルトの割れ目から顔を出した小さなタンポポを見つけ、その生命力に感動しました。
四季によって変わる散歩道の楽しみ―春の新緑、夏の朝露、秋の落ち葉の音、冬の澄んだ空気―これらを五感で感じられることが、日々の幸せなのです。
季節の移ろいを肌で感じ、鳥のさえずりに耳を傾ける時間は、私にとって何よりの喜びです。
散歩の後は、階段の上り下りを5回ほど繰り返します。
足腰を丈夫に保つためと、医師に勧められたのがきっかけでしたが、今では習慣になっています。
「使わないと衰える」という言葉を胸に、できる範囲で体を動かすことを心がけています。
特に手先の運動として、小さな毛糸のボールを作ったり、箸を使って豆をお皿から別のお皿へ移したりする遊びも取り入れています。
日々の食卓
そして、体を作る大切な土台となる食事。
質素ながらも、バランスの取れた食事を心がけています。
主食は玄米ご飯。白米よりも栄養価が高いと聞いて、60代の頃から切り替え、ずっと続けています。
最初は食べにくいと感じましたが、今では玄米の香ばしさと噛み応えが大好きです。
炊くときのコツは、一晩水に浸してから、普通のお米より少し多めの水で炊くこと。圧力鍋を使うと、柔らかく炊けるのでおすすめですよ。
野菜は旬のものをたっぷり使い、魚や肉も少しずつ、でも欠かさずにいただきます。
特に、年を重ねるとタンパク質が不足しがちだと聞くので、意識して摂るようにしています。朝は納豆か卵、昼は豆腐や魚、夜は少量の肉や魚を食べるようにしています。
発酵食品も私の食卓の主役です。味噌、醤油、漬物、ヨーグルトなど、腸の健康に良いと言われる食品を毎日少しずつ取り入れています。
特に、自家製の糠漬けは、祖母から母へ、そして私へと受け継がれてきた大切な健康法です。
皆さん、炒り糠ってご存知かしら?
お米を精米する時に出る糠を炒ったものなのですが、食物繊維やミネラルが豊富なんですって。
昔は「もったいない精神」から生まれた知恵ですが、今では健康食品として見直されているようです。
私はこれを混ぜ込んだクッキーを手作りして、おやつにしています。
香ばしくて、ちょっと懐かしい味がするんですよ。
炒り糠クッキーの作り方
材料(約20枚分):
- 薄力粉:100g
- 炒り糠:30g
- 砂糖:40g(甘さ控えめ)
- バター(常温に戻したもの):50g
- 卵黄:1個分
- バニラエッセンス:少々
- 塩:ひとつまみ
作り方:
- ボウルにバターを入れ、泡立て器でクリーム状になるまで混ぜます
- 砂糖を加えて、さらによく混ぜます
- 卵黄、バニラエッセンス、塩を加えてなめらかになるまで混ぜます
- ふるいにかけた薄力粉と炒り糠を加え、ゴムベラで切るように混ぜます
- 生地をラップで包み、冷蔵庫で30分ほど休ませます
- めん棒で5mm厚さに伸ばし、好きな型で抜きます(私は丸型が好き)
- 170度に予熱したオーブンで15分ほど焼きます
このクッキーは硬すぎず、サクッとした食感で、お茶のお供にぴったりです。
炒り糠は、自然食品店で手に入りますが、精米店で糠をもらってきて、フライパンで焦がさないように炒っても作れますよ。
新しい挑戦
まさかこの歳で、パソコンやスマホを使いこなせるようになるとは、数年前までは想像もしていませんでした。
でも、見えるようになったことで、小さな文字も読めるようになり、思い切って挑戦してみたのです。
正直、最初は「こんな複雑な機械、私に扱えるだろうか」と不安でいっぱいでした。
「お祖母ちゃん、大丈夫だよ。ゆっくり一緒にやってみよう」と孫が根気よく教えてくれました。
最初は娘に教えてもらいながら、ゆっくりと操作を覚えました。
「パソコンを開く」「電源を入れる」という基本的なことから始まり、何度も同じことを繰り返し練習しました。
メモ帳に操作手順を書き留め、わからないことがあれば何度でも質問しました。
スマホは特に苦戦しました。
小さな画面をタップするのが難しく、最初は間違えてアプリを削除してしまったり、知らない人に電話をかけてしまったりと、ハプニングの連続でした。
でも、失敗するたびに笑い合える家族がいることが、どれほど心強かったことでしょう。
今では、インターネットで色々な情報を調べたり、遠くに住む孫とビデオ通話をしたりするのが、私の日常の一部になっています。
先日は、若い頃に住んでいた故郷の風景をGoogleマップで見て、懐かしさで胸がいっぱいになりました。
また、YouTube で昔の歌や映画を見つけては、青春時代を思い出しています。
特に嬉しいのは、オンラインで世界中の美術館を見学できること。
足腰が弱くなり、遠出が難しくなった今でも、パリのルーブル美術館やニューヨークのメトロポリタン美術館の名画を、自宅のパソコンで鑑賞できるなんて、なんて素晴らしい時代なのでしょう。
そして、思い切って始めたのがこのブログです。
日々の小さな発見や感じたこと、健康のために心がけていることなどを綴っています。
一日一記事とはいきませんが、思いついたときに少しずつ書いています。
文章を書くのは、若い頃から好きだったのですが、こうして誰かに読んでもらえるかもしれない、というのは、また格別な喜びがあります。
拙い文章ではありますが、読んでくださる方々の心に、少しでも温かい気持ちが届けられたら嬉しいです。
人生の新しいスタートライン
見える喜び、美味しいものを味わえる幸せ、そして新しいことに挑戦できる意欲。
90歳になった今、私は人生の新しいスタートラインに立ったような気持ちでいます。
もちろん、若い頃のような体力はありません。膝が痛む日もあれば、疲れやすくなったと感じることも多々あります。
それでも、一日一日を大切に生きることの尊さを、年を重ねるごとに深く実感しています。
振り返れば、人生には様々な出来事がありました。
戦争を経験し、貧しい時代を乗り越え、結婚、子育て、離婚を経験し、それでも前を向いて生きてきました。
苦しいことも多かったけれど、今、この瞬間に生きていられることの奇跡に、心から感謝しています。
年齢はただの数字!とおっしゃる先輩もいます!
確かにその通りかもしれません。
大切なのは、何歳になっても好奇心を持ち続け、できることを精一杯楽しむことだと、改めて感じています。
若い方々に伝えたいのは、「失敗を恐れずに新しいことに挑戦してほしい」ということ。
私のような90歳のおばあちゃんでも、新しい技術に触れ、新しい発見をして、日々を楽しんでいます。
年齢に関係なく、学ぶことの喜びは尽きないのです。
また、同世代の皆さんには「できないと思い込まずに、まずは試してみる勇気を持ってほしい」と伝えたいです。
これからも、この新しい朝を大切に、一日一日を丁寧に生きていきたいと思います。
そして、このブログを通して、皆さんとささやかな喜びや発見を共有できたら、こんなに嬉しいことはありません。
皆さんは、最近どんな「新しい朝」を迎えましたか?
また、日々の生活の中で大切にしている習慣はありますか?
90歳の私からのメッセージ:今日も素敵な一日になりますように。