(チームあかね編)
軍事的な準備が逆に衝突を招くという抑止のパラドックスを、国際関係論やゲーム理論、認知心理学の知見から多角的な分析を試みます。
国家が自衛のために軍備を強化することで他国の不信感を煽り、際限のない敵対関係に陥る安全保障のジレンマやスパイラル・モデルの構造的な危険性があると仮説を立てました。
また、軍事的一体化や法的制約が柔軟な外交を妨げ、誤算による先制攻撃のインセンティブを高めてしまう現代特有のリスクについても警鐘を鳴らします。
最終的には、武力による脅しに頼るのではなく、安心供与や非攻撃的防衛を通じて相互の生存を保障し合う「協力的安全保障」への転換こそが、真の平和をもたらすという結論を導きます。
軍事力を背景とした「抑止(Deterrence)」は、歴史的に「平和を望むならば、戦争に備えよ(si vis pacem, para bellum)」という現実主義の格言のもと、国家の安全保障政策における支配的なドクトリンとして君臨してきました。
しかし、国際関係論における学術的知見および歴史的実証研究は、このアプローチが逆説的に他国の脅威認識を刺激し、望まない衝突や戦争のリスクをかえって高めるという「抑止のパラドックス」を明らかにしています。
軍事的抑止力が戦争のリスクを誘発するメカニズムについて、安全保障のジレンマ、スパイラル・モデル、不完全情報ゲーム理論、認知心理学における意思決定バイアス、および現代の防衛政策における構造的陥穽の観点から詳細に検証します。
安全保障のジレンマにおける構造的摩擦と本質的差異
国際関係論における安全保障のジレンマ(Security Dilemma)は、一国が自国の安全を高めるために行う防衛的な軍事力強化が、アナーキー(無政府状態)の国際構造下において、他国に恐怖と不信感を与え、結果として全当事者が軍備拡張や緊張緩和の失敗に追い込まれる動学を指します。
この概念は、ドイツの学者ジョン・H・ハーツ(John H. Herz)やイギリスの歴史家ハーバート・バターフィールド(Herbert Butterfield)によって1950年代にほぼ同時に定式化され、のちにロバート・ジャーヴィス(Robert Jervis)らによって洗練されました。
安全保障のジレンマを構成する要素とその解釈
安全保障のジレンマを構成する要素とその解釈については、提唱者の間でも重要な相違が存在します。
バターフィールドは、このジレンマの根本原因を国際システムのアナーキー性ではなく、人間の「本質的な罪」やそこから生じる「恐怖」に求めました。
彼はこのジレンマをすべての戦争の根本原因と見なしましたが、ハーツやジャーヴィスはこれに同意せず、第二次世界大戦のような「明確な侵略的野心を持つ現状打破勢力(ナチス・ドイツ)」との対峙においてはジレンマは成立せず、抑止の失敗こそが戦争の原因であると論じました。
ジャーヴィスは、アナーキーという構造的要因に加え、物質的(軍事技術や地理など)および心理的要因の双方がジレンマの深刻さを調整すると主張しました。
以下に、安全保障のジレンマにおける主要論者の概念的差異を整理します。
| 評価項目 | H. バターフィールド (Herbert Butterfield) | J. H. ハーツ (John H. Herz) | R. ジャーヴィス (Robert Jervis) |
|---|---|---|---|
| 根本的要因 | 人間の「普遍的な罪」および「恐怖」 | 国際関係の「アナーキー(無政府状態)」 | 国際関係の「アナーキー(無政府状態)」 |
| 意図の不確実性 | 重視する | 重視する | 重視する |
| 悪意の不在前提 | 一貫性を欠く | 前提とする | 前提とする |
| 主な調整因子 | 心理的要因のみ | 強調されず | 物質的(軍事技術・地理)および心理的要因 |
| 全戦争への適用 | すべての戦争の根本原因とする | すべての戦争の原因とは見なさない | すべての戦争の原因とは見なさない |
防御的現実主義(Defensive Realism)の文脈において、ケネス・ウォルツ(Kenneth Waltz)は、共通の統治主体を持たないアナーキーな世界では、国家の最優先動機は「生存」であり、他国の意図に対する根深い不信感から自らの安全保障を最大化しようと試みると指摘しました。
この際、攻撃力と防御力のバランス(Offense-Defense Balance)が、ジレンマの深刻さを左右します。
地理的条件や軍事技術の性質上「攻撃が防御に対して有利」な状況下では、相手より先に行動を起こす先制攻撃へのインセンティブが高まり、ジレンマは極限まで悪化します。
逆に「防御が有利」な状況下では、他国に過度な脅威を与えることなく、自国防衛に専念することが可能となり、ジレンマの悪循環を回避する余地が生まれます。
参考資料
●Deterrence Theory and the Spiral Model Revisited(抑止理論とスパイラル・モデルの再検討)
●The Sprial Model vs. the Deterrence Model – MIT(スパイラル・モデル対抑止モデル – MIT)
●The Security Dilemma: A Conceptual Analysis – Taylor & Francis,(『安全保障のジレンマ:概念的分析』)
スパイラル・モデルと抑止モデルの対立理論
抑止戦略が機能するか、あるいは逆効果を招くかは、国際関係における「スパイラル・モデル」と「抑止モデル」の対立によって説明されます。
これら二つのモデルは、いずれも「望まない戦争の勃発」を説明しようとする点において共通しますが、紛争エスカレーションの動機と処方箋については正反対の構造を持ちます。
スパイラル・モデルは、一方が「相手の態度を改めさせるため」に科す処罰や軍事的な「鞭(sticks)」が、相手を怒らせ、あるいは恐怖に陥らせることで、さらなる攻撃性や防衛的反応を引き出すと想定します。
これに対して最初の側は「最初の処罰が手緩かった」と誤認して制裁や脅威レベルを引き上げ、相手もさらに強硬化するという、双方向の自己強化的な軍拡・敵対のスパイラルが形成されます。
歴史的典型例としては、第一次世界大戦前の英独海軍軍拡競争が挙げられます。
ドイツは自国の権益を守り英国を牽制するために海軍力増強を推進しましたが、これが英国に実存的脅威と受け止められ、英国のさらなる軍備拡張と同盟強化を誘発し、破滅的な大戦へと突入しました。
対照的に、抑止モデルは、攻撃的な「現状打破アクター」に対して融和(アピーズメント)や「飴(carrots)」を示すことが、相手に「弱さ」と捉えられ、さらなる不当な要求や威嚇行動を招くと仮定します。
この場合の古典的失敗例が、1938年のミュンヘン会談における英首相ネヴィル・チェンバレンによるアドルフ・ヒトラーへの妥協(ズデーテン地方割譲の容認)であり、これがドイツのさらなる侵略行動を誘発したとされています。
ジャーヴィスは、この二つのモデルの成否は対峙する相手国の本質的な「意図」に依存すると整理しました。
- 相手国が「現状維持志向(Status Quo)」の場合:軍事的な威嚇や強硬姿勢(抑止モデルの適用)は、相手に「自国が侵略されるかもしれない」という恐怖を与え、スパイラル・モデルを作動させて不必要な戦争を引き起こします。この場合、必要なのは「安心供与(Reassurance)」や対話です。
- 相手国が「現状打破志向(Revisionist)」の場合:妥協や融和(スパイラル・モデル的配慮)は、相手の攻撃性を助長して抑止を崩壊させ、侵略を誘発します。この場合のみ、強硬な軍事的抑止が正当化されます。
しかし、国際政治においては、相手が現状維持志向であるか現状打破志向であるかを客観的かつ正確に判定することは極めて困難であり、情報の不完全性がこの判断を狂わせる主因となっています。
参考資料
■The spiral vs. deterrence model in … – Good Authority
(パイラル・モデルと抑止モデル – Good Authority )

不完全情報ゲーム理論が実証する「抑止の崩壊」
軍事的抑止力の実効性とそれが孕む紛争エスカレーションのリスクは、不完全情報ゲーム理論(Incomplete Information Game Theory)を用いた動的数理モデルによってより精密に検証されています。
とりわけ同盟国への防衛を確約する「拡大抑止(Extended Deterrence)」において、軍事力による威嚇が破綻する論理構造が明らかにされています。
ゲーム理論における「拡大抑止/エスカレーション・モデル」では、主たるプレイヤーとして「挑戦国(Challenger)」と「防衛国(Defender)」が想定されます。
挑戦国は現状の変更を望むアクターであり、防衛国は現状維持を最優先するアクターです。
ここで、結果(Outcomes)を以下のように定義します。
- SQ:現状維持(Status Quo)
- DC:防衛国が譲歩し、挑戦国が利益を得る(Defender Concedes)
- DD:防衛国が挑戦に対抗し、武力衝突または全面戦争に至る(Conflict / Defender Defies)
防衛国には、その防衛の「本気度」や「犠牲を払う覚悟(Credibility)」に応じて、次の2つのタイプが存在します。
- 「強硬型(Hard Type)」防衛国:実際に全面衝突のコストを払ってでも対抗する覚悟があるタイプです。挑戦を突きつけられた場合に対抗(Defy)を選択する脅威は本物(Credible)です。
- 「穏健型(Soft Type)」防衛国:口頭では対抗を叫ぶものの、実際の全面戦争のコストを嫌い、最終的には譲歩を選択するタイプです。挑戦に対する脅威シグナルは本質的に虚張(Bluff)です。
挑戦国は、対峙する防衛国がどちらのタイプであるかを事前に確知することはできず、確率的な事前信念に基づいて行動を決定します。
防衛国が「自国の抑止シグナルの信憑性を高めよう」として、同盟国との一体化や共同訓練、軍備増強などの対抗手段を過度に誇示した場合、このシグナルは挑戦国にとって、自国の生存や地域的影響力に対する直接的な挑戦(実存的脅威)として解釈されます。
もし挑戦国が「防衛国は実際には戦争コストを恐れる穏健型(Soft)であり、現在の軍拡は虚張にすぎない」と評価(あるいは誤認)した場合、挑戦国は現状変更(Defect)を選択します。
しかし、もし実際の防衛国が「強硬型(Hard)」であった場合、防衛国は自らの選好に基づき、挑戦国の行動に対して武力対抗(Defy)を選択せざるを得ません。
この非対称な期待の不一致により、成功するはずであった「抑止」は決裂し、双方が最も望まない全面衝突へとエスカレートします。
このように、軍事的抑止力の誇示や一体化シグナルの強化は、意図の不確実性と情報の非対称性が存在する環境下においては、挑戦国に防衛国の「過大評価」や「見誤り」に基づく挑戦的な自衛行動を誘発し、破滅的な戦争の引き金となる構造的欠陥を内包しています。
参考資料
Deterrence Theory and the Spiral Model Revisited(抑止理論とスパイラル・モデルの再検討)
https://www.acsu.buffalo.edu/~fczagare/Articles/Deterrence%20Theory%20and%20the%20Spiral%20Model%20Revisited.PDF
意思決定における心理的バイアスと認知の盲点
軍事的抑止のパラドックスをさらに深刻化させているのが、指導者たちの意思決定プロセスを歪める認知心理学的バイアスです。
第一に、人間は他者の行動の背景に存在する構造的制約を無視し、その動機を「悪意」や「攻撃的属性」に帰属させやすいという「根本的な帰属の誤り(Fundamental Attribution Error)」が存在します。
一方で、指導者たちは自らの軍事的行動については「周辺環境によって強制されたやむを得ない防御的対応」であると見なします。
この認知バイアスは以下の二重の誤認(Double Misperception)をもたらします。
- 自己の攻撃性の過小評価:自国の防衛行動や抑止シグナル(軍備増強や同盟の深化など)が、他国を不必要に刺激したり、他国に恐怖や脅威を与えたりしている事実を認識できません。
- 相手の被害意識・正当な不満の過小評価:自国が過去に他国に与えた歴史的損害や現在の行動が引き起こす脅威認識に無自覚であるため、他国の防衛的対応を「不可解な、あるいは本質的な攻撃的野心」として捉え、さらなる抑止(威嚇)が必要であると誤診断します。
さらに、平和学の創始者ヨハン・ガルトゥング(Johan Galtung)は、この防衛心理が極限化すると、国家規模での「軍事パラノイア(被害妄想的敵意認識)」へと発展すると警鐘を鳴らしました。
日本の右派勢力などの安全保障議論に顕著に見られるように、「過去に我々は近隣諸国を侵略した。したがって、相手は必ずその報復を計画しているはずであり、それゆえに相手は潜在的に危険である」というパラノイア的論理が働き、防衛を名目とした攻撃的兵器の配備や軍事同盟の無批判な肯定に繋がりやすくなります。
このようなパラノイアに支えられた抑止力強化は、相手国から見れば「反省なき軍国主義の復活」と映り、結果として周辺国に防衛的または予防的な軍備増強を余儀なくさせ、安全保障のジレンマを制御不能なレベルへとエスカレートさせます。
参考資料
軍縮への間主観要素として の安全保障のジレンマ,
世界史寸評外から見た日本の平和:ヨハン・ガルトゥング再考南塚 …,

現代の安全保障政策および軍事技術がもたらす具体的リスク
古典的な抑止理論が想定した安定性は、現代の戦術的同盟、法制度、および急速に進展する技術的変容によって急速に失われ、紛争の誘発要因へと転換しています。
「手を縛る(Tying Hands)」政策の罠と危機の固定化
抑止の信憑性を高める手段として、防衛国は「手を縛る(Tying Hands)」戦略を採用することが多くあります。
これは、あらかじめ特定の事態(例:同盟国への攻撃)に対して「自動的に反撃する」ことを法改正や同盟条約で義務付け、撤退した場合に極めて大きな「国内的・国際的評判のコスト(Reputational Cost)」が発生するように自らの選択肢を縛る行為です。
しかし、この戦略は危機発生時において指導者から外交的柔軟性や妥協の余地を完全に奪います。
ひとたび小規模な偶発的衝突が起きた際、双方が「手を縛られた」状態にあれば、評判コストの支払いを回避するためにエスカレーションを選択せざるを得なくなり、制御不能な全面戦争へと直結します。
参考資料
■Theory-Based Assessment of Deterrence – NATO,
(抑止力に関する理論に基づく評価 – NATO, )
https://publications.sto.nato.int/publications/STO%20Meeting%20Proceedings/STO-MP-SAS-196/MP-SAS-196-31.pdf
安保法制と「巻き込まれ・標的化」の逆効果
日本の安全保障政策における「集団的自衛権の行使容認」や安保法制の整備は、日米同盟の一体化を示して抑止力を高め、戦争を防ぐという大義名分のもとで審議・可決されてきました。
しかし、この政策は抑止を成立させるどころか、日本自身に対する攻撃のインセンティブを劇的に高めるという逆効果をもたらします。
抑止論において、日本を攻撃しようとする国に対して短期的な抑止を効かせることは困難です。
安保法制によって、米国の艦船や軍事アセットを共同で防衛(一体化)することは、敵対国から見れば「日本が米国の戦争に直接参戦する意志と能力を示した」と受け止められます。
これにより、本来日本と直接的な武力衝突を望んでいなかった敵対国であっても、米国との戦闘において日本を「最優先で排除すべき敵対的な戦闘当事国」として認定し、日本国内の基地や施設を先制攻撃する強力なインセンティブを相手に与えます。
すなわち、抑止を高めるための同盟強化行動が、かえって自国を攻撃するインセンティブを敵国に与え、望まない戦争に巻き込まれる論理構造が成立します。
参考資料
■戦争は誤算で起こる!?――「抑止力」と今後の東アジア情勢

現代技術による決定時間の圧縮と先制攻撃圧力
現代の軍事技術(サイバー兵器、極超音速ミサイル、人工知能を用いた自律型兵器システムなど)は、意思決定のための猶予時間を極限まで奪い去っています。
サイバー空間や電磁波領域においては、攻撃手段と防御手段の区別が物理的に不可能であり、相手が防衛的なサイバー能力の配備を進めているだけで、それは自国のインフラをいつでも無力化できる攻撃能力と認識されます。
このような状況下では、相手が攻撃態勢に入ったと少しでも疑われた場合、その攻撃が着弾する前に自国から先制攻撃を仕掛けることが「唯一の生存手段」となるため、偶発的判断やシステムエラーによる誤算からエスカレーションが発生するリスクが極めて高くなります。
以下に、現代の防衛政策や技術的変化が引き起こす抑止の破綻メカニズムを整理します。
| 政策・技術的要因 | 当初の抑止意図 | 逆説的に高まる戦争リスクのメカニズム |
|---|---|---|
| 手を縛る(Tying Hands)政策 | 撤退時の損失(国内・評判コスト)を高めることで、防衛の意志を敵に確信させる。 | 危機発生時に指導者の妥協や撤退の選択肢を奪い、偶発的衝突を全面戦争へエスカレートさせる。 |
| 集団的自衛権・安保法制の強化 | 同盟国との一体化を誇示し、敵対国に攻撃を思いとどまらせる(抑止力向上)。 | 敵対国に対し、日本を直接の「敵戦闘員・敵対地域」として認定させ、先制攻撃の動機を与える。 |
| サイバー・極超音速兵器等の導入 | 打撃力を向上させ、相手の攻撃行動に伴うコストを急増させて抑止する。 | 意思決定時間を圧縮し、攻撃側有利の環境を作ることで、誤算による先制攻撃を誘発する。 |
| グレーゾーン(サラミスライス)対応 | あらゆるレベルの小規模侵略も許さない「切れ目のない抑止」を構築する。 | 全面対決のコストが大きすぎて大国の脅威が信憑性を失い、誤算から局地衝突を誘発・拡大させる。 |
参考資料
■Nuclear Deterrence and the Security Dilemma in a Complex Multipolar World(複雑な多極化世界における核抑止と安全保障のジレンマ)
■米国におけるサイバー抑止政策の刷新 – 慶應SFC学会 https://gakkai.sfc.keio.ac.jp/journal/.assets/SFCJ15-2-04.pdf
まとめ・抑止偏重の限界と「共通の安全保障」への回帰
軍事的抑止力が戦争のリスクを高める要因となるのは、それが「恐怖対恐怖」という対立的感情とアナーキーな国際社会の構造的欠陥、さらには意思決定者の認知的な盲点に過度に依存しているからにほかなりません。
さらに、抑止政策が本質的に抱える深刻な問題は、「抑止が成功した(戦争が起きなかった)」のか、それとも「そもそも相手に攻撃の意図がなかった(抑止は無関係であった)」のかを実証的に判断することが不可能であるという、予防措置特有の評価のジレンマにあります。
このため、国家指導者は「自国の平和は防衛力強化の成果である」という生存バイアスに陥りやすく、自国の軍拡が他国に与えた脅威(スパイラルの深化)に無自覚なまま、さらなる軍備増強へと突き進みます。
この「抑止のパラドックス」を解きほぐし、望まない戦争を回避するためには、抑止一辺倒の安全保障政策から、以下に示す多角的な「協力的安全保障」および「安心供与」アプローチへの政策的な再方向付けが必要です。
第一に、相手国の生存と安全を自国の前提条件とする「共通の安全保障(Common Security)」へのパラダイムシフトです。
自国が安全になるために他国を不安に陥れる軍拡の論理を改め、CSCE(欧州安全保障協力会議)やパリ憲章に見られたような、相互の不信感を解消するための協調的プラットフォームを平時から構築する必要があります。
第二に、「攻撃の基準(レッドライン)」や防衛の範囲を相互に明確に開示し、相手がそれを越えない限り攻撃しないことを信頼性高く伝える「安心供与(Reassurance)」の制度化です。
これには、軍事行動の透明性を担保するための対話の維持、突発的な事故やサイバーエラーを遮断するための多国間ホットラインの整備が含まれます。
第三に、ガルトゥングらが提唱した「非攻撃的防衛(Non-Offensive Defense:専守防衛)」の原則に徹することです。
敵基地攻撃能力や長距離精密打撃兵器などの「他国に実存的脅威を与える攻撃的兵器」をあえて排除し、防衛に特化した構造を維持することにより、相手国に対して「侵略の意図がない」という最も強力なシグナルを送り、安全保障のジレンマというスパイラルそのものを根底から無力化することが求められます。
参考資料
■協力的安全保障と集団安全保障 – The University of Osaka Institutional Knowledge Archive : OUKA – 大阪大学 https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/7297/2-1_n.pdf
