ICC赤根所長への制裁にあかねが思う・国際司法の灯を消さないために

あかね

背筋を伝った、あの冷たい感触

国際刑事裁判所、ICCの所長でいらっしゃる赤根智子さんに対して、アメリカのトランプ政権が経済制裁を科した。

また、2025年12月には、ICCがプーチン大統領に逮捕状を出したとき、ロシアのモスクワ裁判所が、赤根所長らICC、9人の職員に実刑で最長15年の拘禁刑を言い渡しました。

赤根氏らは、ロシア国外にいるのでロシア国内に入らない限り効力がありません。

これらのニュースに触れましたとき、ワタクシの背中を流れましたのは、単なる怒りではございませんでした。

氷の塊を、直接背筋に押し当てられたときのような、あの冷たい戦慄でございます。

暗い時代の足音が、また少しずつ近づいてくる。

そんな気配を、老いたワタクシの肌が敏感に感じ取ってしまったのでございます。

人類は、二つの世界大戦という、筆舌に尽くしがたい惨禍をくぐり抜けてまいりました。

そうして、ようやくたどり着いたのが「罪を犯した者を、決して見逃さない」という、高潔な理想でございます。

その理想が今、巨大な力によって、足元からガラガラと崩れ落ちようとしている。

ワタクシには、そう感じずにはいられないのでございます。

ICCの赤根智子所長の『戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない』という本を読みました。

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プーチンとネタニヤフに逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)。

日本人として初めてICCのトップに就任した赤根氏、世界規模の戦争犯罪に向き合うたたかいが報告されています。

法とは、荒波の中の一本の錨

ワタクシたちの社会にとりまして「法の支配」とは、荒れ狂う国際情勢という大海原の中で、

文明が野蛮へと押し流されないよう繋ぎ止めている、一本の錨(いかり)のようなものでございます。

あるいは、真っ暗な夜道で、私たちが進むべき方向をかろうじて照らしてくれる、小さな行灯(あんどん)と申してもよいでしょう。

その大切な灯を、強大な力を持つ者が、土足で踏み消そうとしている。

これは、一人の日本人の判事が不利益を被るという、個人の問題では決してございません。

世界が再び「力こそが正義」という、かつての弱肉強食の闇へと逆戻りするのかどうか。

ワタクシたちは今、そのような、極めて重大な歴史の分かれ道に立たされているのでございます。

紙とペンさえ凍らせる、見えない鎖

今回、トランプ政権が発動いたしました大統領令、その番号は14203号と申しますが、

この制裁はあまりに冷酷で、そして周到なものでございました。

赤根所長らが受けていらっしゃる仕打ちは、目に見えない鎖で手足を縛り、社会的な死を強いるに等しい行為と申せましょう。

資産は凍結され、クレジットカードは使えなくなり、銀行口座を通じたあらゆるお支払いが遮断される。

これでは、日々の暮らしそのものが、立ち行かなくなってしまいます。

けれども、今の世で何より恐ろしいのは、ワタクシたちが当たり前のように享受しております、

パソコンやインターネットの仕組みから締め出されてしまうことでございます。

実はICCの仕組みそのものが、アメリカの会社が作った土台の上に建てられているのだそうです。

マイクロソフトやアマゾン、グーグルといった会社の情報の保管庫から締め出されるということは、

現代の法の番人から「筆を奪い、紙を燃やす」に等しい絶望を与えることになります。

事実、制裁を受けたある検察官の方は、パソコンでの作業を一切禁じられ、すべてを紙のうえで行うことを強いられたと伝わってまいりました。

判決を書くための指先さえ、今の技術によって凍りつかされてしまう。

これこそが、目に見える暴力よりも恐ろしく司法を麻痺させる、冷徹な武器なのでございます。

自分の家の掟を、村の広場に押しつける強引さ

この制裁の裏には、ICCがガザ地区での出来事をめぐり、イスラエルのネタニヤフ首相らに逮捕の命令を出したことへの、アメリカの烈しい反発がございます。

アメリカはこれを「自分たちの領分への侵害」と呼び、ICCそのものを解体するとまで息巻いております。

分かりやすく申しますなら、村の広場にある「みんなで守るべき決まりごと」よりも、

自分の家だけで通用する「身勝手な掟」を、無理やり押し通そうとするような強引さでございましょう。

司法の独立が、これほど露骨に踏みにじられることは、人類がニュルンベルク裁判以来、

幾十年もかけて積み上げてまいりました正義の歩みを、数百年分も逆戻りさせる暴挙にほかなりません。

半世紀凍りついていた、正義の種

ワタクシの記憶にございます1945年(昭和20年)の終戦は、希望と、人間の残酷さへの深い絶望とが、混ざり合ったものでございました。

ニュルンベルクや東京で行われた裁判は、あの頃の人々やワタクシの目には、

力による支配を終わらせるための「正義の種」が蒔かれた瞬間のようにも見えたものでございます。

しかし、それは戦勝国の身勝手や利害が関係していました。

そして、「正義の種」は、冷戦という長い冬のあいだ、なかなか芽吹くことができませんでした。

半世紀以上もの歳月を経て、ようやく2002年(平成14年)に花開いたのが、常設の国際刑事裁判所、ICCでございます。

ICCが扱いますのは、集団虐殺、人道に対する罪、戦争犯罪、そして侵略犯罪という、人の道を踏み外した四つの奈落でございます。

20世紀という時代、数え切れないほどの子どもたちが、想像を絶する残虐な仕打ちの犠牲となりました。

その深い反省から、世界125もの国と地域が「ローマ規定」という約束を交わしたのでございます。

ワタクシには、この条約が「二度とあのような悲劇を繰り返さない、二度と子どもたちを泣かせない」という、

世界中の人々が交わした「正義の指切り」のように思えてならないのでございます。

ICC(国際刑事裁判所)の歴史や成立過程、問題点などは、「チームあかね」が、またしっかりと記事にまとめてくれました。

ものすごく長い記事ですが、だいたいのことは網羅されて、まとめられております。

是非ご覧ください。

国際刑事司法における超国家権力と現実主義の衝突:米国による国際刑事裁判所(ICC)制裁措置の多角的分析と「法の支配」の構造的危機(チームあかね編)

国際刑事司法における超国家権力と現実主義の衝突:米国による国際刑事裁判所(ICC)制裁措置の多角的分析と「法の支配」の構造的危機(チームあかね編)
国際刑事裁判所(ICC)による非加盟国の国民への管轄権行使と、それに対抗して米国が発動した前例のない経済制裁が引き起こしている「法の支配」の構造的危機を分析します。常設の国際司法機関としてのICCの歴史的歩みから説き起こし、米国の大統領令1...

さすらいの医師が立ち去るとき

ここで大切なことがございます。

ICCは、他の国の裁判所より偉そうに振る舞う場所では決してございません。

自分の国で裁けるものは、まずその国自身に任せる。それが果たされないときだけ、ようやく重い腰を上げる。

そういう控えめな立場を、ICCは貫いてきたのでございます。

ちょうど、地元の病院に頼れるお医者様がいなかったり、診てもらえなかったりしたときにだけ、

遠くから駆けつけてくれる「さすらいの医師」のような存在なのでございます。

国内の司法がうまく機能しないとき、最後の最後に頼るべき「最後の砦」。

その砦を、自分たちにとって都合の悪い判断をしたからといって壊してしまえば、

虐げられた被害者の方々は、いったいどこに救いを求めればよいのでございましょうか。

大黒柱の、あまりに寂しい沈黙

この大切な砦が、激しい攻撃にさらされております今、ワタクシたちの国、

日本の立ち居振る舞いに、深い悲しみと、鋭い痛みを感じずにはいられません。

日本はICCにとって、その屋台骨を支える最大の資金の出し手、いわば「大黒柱」でございます。

それにもかかわらず、高市政権のご対応は「大変残念」というひとことに留まり、

アメリカに対して制裁の撤回を毅然と求めることさえ、なさっておられません。

アメリカは、日米同盟を平和の「礎(いしずえ)」と呼び、日本のことを「これほど大切な仲間はいない」と、甘い言葉で称えてまいります。

けれどもその裏側では、ICCへの支援を打ち切るよう期待し、圧力をかけてくる。

あえて厳しく申し上げますが、大切な原則を捨てよと迫られながら「仲間」と呼ばれるのは、友情ではございません。

ただの「従順さ」を求められているだけでございます。

かつてロシアのプーチン大統領に逮捕の命令が出ましたときには、あれほど威勢よく「法の支配を断固支持する」と語っていたではございませんか。

それが、いざ同盟国であるアメリカが関わりますと、夕暮れ時の影のように、相手の顔色をうかがって態度を変えてしまう。

こうした卑屈な二重の物差し(ダブルスタンダード)こそが、日本が長い年月をかけて培ってまいりました「人道の外交」への信頼を、根底から崩してしまうのでございます。

ワタクシたちの孫の世代に、このような弱腰の背中を、いったいどうして胸を張って見せられるでございましょうか。

厚い暗雲の隙間からの、金色の光

けれども、絶望ばかりではございません。

世界のあちこちから、そしてこの日本の国内からも、法の支配を守り抜こうとする「抵抗のさざなみ」が沸き起こっております。

ヨーロッパ連合、EUは、アメリカの一方的な制裁の効き目を無くしてしまう仕組みの検討を始め、

フランス、ドイツ、オランダといった国々も、揺るぎない支持を表明しております。

それはまるで、厚い暗雲の隙間から差し込む、一筋の金色の光のように、ワタクシの目には映るのでございます。

日本でも、急なお声がけにもかかわらず130人もの方々がアメリカ大使館の前にお集まりになり、抗議の声をお上げになりました。

パレスチナの人権委員でいらっしゃるサラ・アブドアルアティさんがおっしゃった

「これは力による支配か、法による支配かの分かれ道である」というお言葉は、

まさに事の本質を突いていらっしゃいます。

この声は、今はまだ小さなしずくのようなものかもしれません。

けれども、やがては大きな川の流れをも変えてしまう力になると、ワタクシは信じているのでございます。

誇らしい、あるお方の背中

何よりも、赤根所長ご自身がお示しになった「これを法の支配の終わりの始まりにはさせない」という不屈のご決意。

制裁を予期しながらも、毅然と前を見据えていらっしゃるそのお姿は、同じ日本人として、そして一人の人間として、これほど誇らしいことはございません。

この問題は、ワタクシたちがいったいどのような国際社会を、次の世代にお渡ししたいのかという、私たち自身への「意志の試し」なのでございます。

ワタクシの、ささやかな祈り

94年という長い歳月を振り返りまして、ワタクシが今、切に願いますことは、ただひとつでございます。

この世界が再び、強い者が弱い者を食い物にする「野蛮な弱肉強食の世界」へと戻ってしまうことだけは、見とうございません。

ワタクシの人生のほとんどを費やして、人類がようやく手に入れた「法という正義の灯」を、ここで絶やしてはならないのでございます。

長生きするのも、決して悪いことばかりではございません。

時代の移り変わりを、こうして静かに見守り、皆様にお話しすることができるのですから。

読者の皆様、ワタクシのような老婆の独り言、耳だけで聞き流していただいても結構でございます。

けれども、どうか心に少しだけ留めておいてくださいませ。

私たちが黙って見過ごすことは、道理に合わない力を認めてしまうことと、同じになってしまいます。

明るい未来を、子どもたちに。そのために必要なのは、強大な兵器などではございません。

誰に対しても平等に働く「法」と、それを信じ続ける「私たちの意志」でございます。

どうぞ、このささやかな祈りが、皆様の心に届きますように。

最後の一句

 我(われ)こそが 法(のり)だと言い張る 裸の帝(みかど)

「法は我なり」というトランプ氏の専制的な発想をそのまま言葉にし、「裸の帝」でその虚勢と実態のなさを強く皮肉りました。強大な権力への風刺をこめて。

参考文献など

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