はじめに――ある開示書類が世界を揺さぶった
アメリカのニュースを見ていたら大きな問題になっているニュースをご紹介します。
日本でも少し報道されていますが、大手マスコミは、小さく出ていてもほぼ無視です。
どんなニュースかというと、困ったことばかりするトランプさんです。
ワタクシ、94年も生きてきますとね、世の中のいろんなことを見てまいりました。戦争も、復興も、バブルも、その崩壊も。
でも今日ご紹介する話は、94年生きてきたワタクシでも、少し首をひねってしまうような、とってもトランプさんらしい出来事でございます。
2026年の5月、アメリカで「OGE Form 278-T」という、ちょっと難しい名前の書類が公開されました。
これはアメリカ政府の倫理局というところが公にする、政治家の財産報告書でございます。
ところがこの書類、今年は普通の財産報告書の枠をはるかに超えた「衝撃の内容」だったのですね。
世界最強の権力を持つアメリカ大統領の公務と、個人のお金儲けが、かつてないほど密接に、しかも不透明に絡み合っている実態が、白日の下にさらされたわけでございます。
この内容は気になったので「チームあかね」にしっかり調査してもらい記事にまとめてもらいました。
大体の内容は網羅されてるかと思いますので、詳しく知りたい方はどうぞご覧ください。
トランプ氏による3,700件の取引が示唆するガバナンスの危機・米国大統領の証券取引における法的・倫理的パラダイムの変容(チームあかね編)

たった3ヶ月で3,642件・その「異常な数字」の意味
さて、トランプ氏、なのをしでかしたかと申しますと、
まずその「規模」を想像していただきたいのですが、ドナルド・トランプ大統領、あるいはその投資顧問は、
2026年の最初の3ヶ月間だけで、なんと3,642件もの株式売買を実行したとのことでございます。
取引の総額はといえば、下限でも約2億2,000万ドル、日本円に換算しますとおよそ350億円、多い見積もりでは750億円にも達するとのことです。
そして大統領に就任して以来、仮想通貨事業や今回の株運用などを通じて、
資産総額が推定で30億ドル、日本円でざっと4,700億円も増えたといわれております。
「公への奉仕」のために大統領になったはずが、任期中に4,700億円も個人資産が増えるというのは……ワタクシなどは少し考え込んでしまいます。
「自分の政策に賭けた」利益相反の疑惑
さらに問題なのは、取引の「中身」でございます。
買っている株が、エヌビディア、アップル、メタ、ボーイング、パランティアといった、いずれも自分の政権の政策や規制の影響を大きく受ける企業ばかりなのですね。
これがいわゆる「利益相反」――自分の利益のために公の権限を使うことへの疑惑――というものでございます。
たとえばエヌビディアという半導体、つまりコンピューターの頭脳を作る会社の株を買ったのが1月6日。
その後、商務省がこの会社の製品を中国へ輸出してよいと認める決定を出したり、
トランプ大統領みずからが同社の社長を中国訪問に連れていき、
習近平国家主席に直接「買ってください」とセールスしたりしております。
自分が株を持っている会社のために、大統領の外交権力を使ったともとられかねない行動でございます。
また軍や警察関係の仕事をするパランティアという会社の株も1月6日に購入。
その翌月には国土安全保障省がこの会社と10億ドル規模の契約を結んでおります。
アクソンという社名の会社も2月10日に買いましたら、その2週間後には移民当局が2億2,000万ドルもの大型調達を発表した。
あのデルというパソコン会社も2月10日に取得したところ、5月には大統領自身が公式の場でその会社を称賛して株価が急騰した――。
こうした出来事が次々と明らかになっているわけでございます。
トランプ氏側は「投資顧問にすべておまかせしており、本人は関与していない」と主張しております。
ところが、提出された書類のなかに「アンソリシテッド」――日本語にすれば「非要請取引」、つまり顧問から言われたのではなく本人が自分で指示した取引――という記号が記されているものが多数含まれているというのです。
これはいわゆる「スモーキング・ガン」、決定的証拠というやつで、「第三者が管理している」という言い訳を根底から覆す事実でございます。
「スモーキング・ガン」というのは、撃ったばかりで硝煙が残る銃に由来し、言い逃れのできない「動かぬ証拠」を指します。
余談ですが、「スモーキング・ガン」は、アメリカでは、ニュース、ドラマ、日常会話で頻繁に耳にする一般的な言葉です。
1974年のウォーターゲート事件で、ニクソン大統領が盗聴隠蔽を指示した「録音テープ」が発見された際、
メディアが一斉に「Smoking Gun」と報じたことで、政治・社会用語として不動の地位を得ました。
日本とアメリカで、こんなに違う受け止め方
この問題、日本とアメリカではずいぶんと受け止め方が違うようでございます。
日本では通信社の記事がウェブサイトなどに流れてはおりますが、大手の新聞やテレビが大々的に特集するというようなことはないようです。
一方、アメリカでは、ブルームバーグやロイターなどが「ウォール街の驚愕」として連日詳しく報じており、民主党のウォーレン上院議員は「国家安全保障上の大惨事だ」と激しく非難しております。
トランプ氏の支持者側は「合法的な投資行為に過ぎない」と擁護しており、議会を巻き込んだ大論争になっているのですね。
同じ出来事でも、日本では「変わった投資ニュース」として読み流されるところが、アメリカでは「大統領職そのものの倫理的崩壊」として受け止められている――この構造的な認識の差はとても興味深いと思います。
歴代大統領はどうしてきたか・壊された「見えないルール」
ワタクシが生まれた昭和6年、1931年といえばアメリカではフーバー大統領の時代でございます。
その後、アメリカの大統領という職業には、法律に書かれていない「規範」というものが積み重なってまいりました。
「ブラインド・トラスト」というものがその代表でございます。
ブラインド・トラスト、つまり「目隠し信託」とでも申しましょうか。
大統領の就任中は、自分の資産をまったく関係のない独立した第三者に預けてしまい、「どの株を持っているか」「どんな運用をしているか」を大統領本人が一切知らない状態にする、というものでございます。
これによって「自分の利益のために政策を歪める」という疑念を根本から断ち切ってきたわけですね。
ジミー・カーター大統領はジョージア州でピーナッツ農場を経営しておりましたが、就任にあたって農場を売却、あるいは信託に入れて切り離しました。
バラク・オバマ大統領は個別の株は一切買わず、市場全体に連動する投資信託と国債だけにしていたといいます。
ジョー・バイデン大統領も、政府の倫理局が認定した「適格ブラインド・トラスト」に資産を完全に分離しておりました。
ところがトランプ氏の信託は、独立した第三者ではなく自分の子供たちが管理しており、しかも本人が内容を把握したうえで直接指示できる状態にあると指摘されています。
半世紀以上にわたって積み重ねられてきた、目に見えない倫理的な「規範」が、根底から壊されているというわけでございます。
法律の「抜け穴」なぜ罰せられないのか
「でも、違法なら罰せられるのでは」とお思いの方もいらっしゃるでしょう。
アメリカには、合衆国法典第18編第208条「18 U.S.C. § 208」という利益相反を禁じる法律がございます。
アメリカ合衆国の行政機関の職員が、自身や利害関係のある他者の金銭的利益と関わる公務(契約や政策立案など)を行うことを禁じる「連邦利益相反法」です。
ところが1989年の法改正で、大統領と副大統領だけはこの法律の適用から「明示的に除外」されてしまったのですね。
憲法上の権限を優先させるためという理由だそうですが、つまり大統領だけは利益相反禁止法の対象外という、大きな穴が空いているわけでございます。
また「STOCK Act」という取引の開示を義務付けた法律もあるのですが、報告が遅れたりした場合の罰金がわずか200ドル、日本円にしてたった約3万円でございます。
3ヶ月で数百億円規模の取引をする方にとって、3万円というのは……もはや気にも留めない金額でしょう。
法律があっても、罰則が形骸化してしまっているのですね。
法律的に免除されているからといって、倫理的に正当だということにはなりません。
「外見上の不適切さ」――つまり「傍から見て不正直に見える行為」――が放置されると、国民の政府に対する信頼という、目には見えないけれど大切なインフラが、内側から少しずつ腐っていく。
ワタクシはそう思います。
さらに新しい問題――「トランプ・アカウント」と予測市場
2026年になって、さらに新しい問題も出てきております。
「One Big Beautiful Bill Act」という法律に基づいて、子ども向けの投資口座の独占的な取り扱い権が「ロビンフッド」という証券会社に与えられることになりました。
ところが大統領本人がそのロビンフッドの株を保有しているというのですね。
政策で恩恵を受ける会社の株を政策を決める人が持っている――これが「自己完結型の利益相反」と呼ばれるものでございます。
また2026年3月、イランへの軍事行動が起きる直前に、いわゆる「予測市場」というところで不透明な大きな動きがあったとも報告されています。
予測市場とは、将来の出来事に「賭け」をする市場でございますが、軍事機密情報を持つ者がその情報をお金に換える手段として悪用されかねない、という懸念が高まっております。
これに対抗するための新しい法案も提出されており、情報と利益の関係をめぐる戦いが、アメリカでは、新しい段階に入っているのです。
大統領職の「変質」と、民主主義の未来
今ワタクシがお話ししてきたことは、単純に「取引の件数が多すぎる」という問題ではございません。
大統領という職が、本来の「国民への奉仕」から、国家権力を梃子(てこ)にした「期間限定の特権的投資会社」へと変わってしまっているのではないか、という問いかけでございます。
株を買ってから、イラン攻撃を仕掛けて、子供を含む多くの人を犠牲にして、世界経済を混乱させ、その裏で私腹を肥やす株取引をしている。
アメリカ議会では、大統領や議員の個別株保有を全面禁止しようという「Restore Trust in Congress Act」、新しい株購入には7日前の事前通知を義務付ける「Stop Insider Trading Act」、そして適格ブラインド・トラストへの移行を義務付ける「ETHICS Act」という三つの法改正案が議論されているそうです。
ただ政治的な思惑が絡んで、なかなか前に進まない状態が続いているとのこと。
日本でも、高市政権による防衛費増額(GDP比2%水準への引き上げなど)を背景に、防衛関連企業の株価は中長期的な成長が期待できる「国策テーマ株」として注目を集めています。
「軍事銘柄御三家」と呼ばれる三菱重工業、川崎重工業、IHIの3社の株価は、防衛費増額や好調な業績を背景に、直近数年で大幅に上昇しています。
ダイヤモンドオンライン「防衛銘柄として株価が爆上げ」という記事にありました。

これらの株をよもや、政権内部の方々がもっていないでしょうね。いかがでしょうか。
94年生きてきたワタクシが思いますのは、民主主義というものは、法律の条文よりも、人々の「信頼」という目に見えないものの上に成り立っているのだということです。
ワタクシが生きた昭和の戦争の時代も、誰かが「法律に書いてないから何をしてもいい」という理屈で動き始めた時から、物事がおかしくなっていったように思います。
もし法の抜け穴が塞がれないまま放置されれば、ホワイトハウスに「蓄財の司令塔」が同居し続けるという、歪んだ構造が当たり前になってしまうかもしれません。
自由民主主義の最後の砦は、信頼でございます。
その信頼が、回復できないほど失われないよう、ワタクシは遠い東の国から、老婆心ながら案じております。
今日の一句
株上げて 国際秩序 下げにけり
自分の株価を上げるその裏で、世界が長い年月をかけて築いてきた信頼と秩序をひっかきまわすトランプさん!そんなやるせなさを、94年分の溜め息とともに詠みました。
